KOZO MIYOSHI
8x10.jp

CACTI

1000 AZ9201,1992

乾いた熱い大地がうねります。遥か彼方の山ふところまで、等間隔に生えるサワロサボテン林が続きます。それは大自然の中、調和のとれた自然淘汰の美観です。この砂漠にわけいるのは、小舟で見果てぬ彼の地へ漕ぎでる感じです。際めるところの一歩が大事です。ここでは時々時間の流れが止まります。磁極が動天してぐるんと中に入る感じです。この大地は均時差の世界です。この空間は虚空界です。岩に腰を掛けて耳を澄ましてごらんなさい。砂漠の乾いた風がサワロの棘の間を通りぬけるのが聞こえます。ここでは風が主旋律です。この調べはこれから訪れる筈の、永い静寂の序曲です。静寂は奏を越えた調べです。遥か西の彼方に陽が沈み、月が暗い砂漠の空で輝く夜のこと、サワロの花が咲く時刻です。天に向かって冠状に雪のような白い花が開きます。蝙蝠が蜜を求めて飛び交います。それは一晩限りの円舞です。夏になり種は熟れ、赤い果肉が見えています。風に吹かれて果実が大地に落ちました。ながい日照りが続いたある日、南の空から入道雲に覆われて、突然砂漠に雨が降りました。小さなサワロの芽が出るのもこの時です。この乾いた大地で一ミリにも満たない黒い小さな種が百五十年で、十五メートルまで成長し、サワロ巨人になるのです。それからもう百年、物静かに砂漠を見据えながら佇まうのです。そしてある晩、我知らず朽ちるのです。